ディスカッションの進め方
ー Let's Start Enjoyable Discussion! −

 ディスカッションは参加者が意見や情報の交換をしたり、問題を解決したりする協力型の議
論の形態です。日常生活でも会社の会議やサークルのミーティングなどで常におこなわれてい
ますが、英会話サークルや英会話スクールでも英会話力向上の手段としてよく用いられていま
す。
  
  しかし実際にディスカッションに参加すると、何らかの結論や新しい情報を得ることが目的の
会議やミーティングですら、その進め方をわかっていないために何の結論も新しい知見も得ら
れないまま時間だけが過ぎていく・・・といったことがよく見られます。英会話力の向上を目指し
てディスカッションを取り入れている英会話サークル等でも、ディスカッションと言うよりは退屈な
雑談になっているということがよくあります。

  中上級者向けの英会話サークル等では、ディスカッションで他の参加者と意見交換をおこな
うことがよくあります。それらを有意義なものにするためにディスカッションの基本的な進め方を
まとめましたのでご参照ください。


1.最も重要なのは・・・「論点を明確にすること」

 ディスカッションで最も重要なことは「論点を明確にすること」です。これができないと、話があ
ちこちに飛んでたちどころに雑談になってしまいます。次にその典型的な例を示します。Mは司
会で、A〜Dは参加者です。


M  「それでは今日は、『大学入試への英語リスニングテストの導入』について議論します。」

A  「僕はリスニングテストの導入には賛成です。これによって、これまで日本人の弱点とされ
   ていた英語の音声面での能力が飛躍的に伸びると思うからです。」

B  「私は反対です。大学で必要な英語力はむしろ読み書きの能力だからです。」

C  「大学で必要な読み書きの能力といえば、最近は日本語の読み書きの能力も下がってい
   ますね。」

D  「そうそう、私も最近漢字が書けないんです!」


 「大学入試に英語リスニングテストを導入すべきかどうか。」が議題だったのに、あっというま
に「日本語能力の低下」の話になってしまいました。
 英語のディスカッションのみならず、会社の会議やサークルのミーティングなどでも似たような
ことがよく有るはずです。関係したことなら何を話してもいいというものではないのです。
 

2.参加者の役割

 ディスカッションでは司会や議長(moderator, chairperson)と呼ばれる人をおき、その人の議
事進行に従って意見交換をおこないます。司会の役割は非常に重要で、おなじ論題について
話しても、その議事進行一つでディスカッションの面白さがまったく変わってきます。また、参加
者全員の協力がなければ、司会がいくら頑張ってもそのディスカッションはつまらないものにな
ってしまいます。司会・議長になった時のみならず、一参加者である場合にも以下の点にご留
意ください。


1)司会・議長(moderator, chairperson)

@論点を明確にする。
 1.で述べたように、ディスカッションでは「論点を明確にする」ことが大切です。そしてその役
割が司会には求められます。

 司会は全ての発言や質問を取り上げてはいけません。発言や質問の中には現在の論点か
らはずれたものがありますから、それらを全て取り上げていると話がたちどころに議論の中身
が変わってしまいます。異なった論点に関するものは後で取り上げればいいのです。

 経験的に最も注意すべき時は「誰かが論点からずれた発言をした直後、それに対する   
意見を別の人が返した」時です。この時司会が何も言わないと一瞬で話が変わってしまいま 
す。上の例ですと、Cさんが論点から外れた発言をした直後にDさんがそれに対して発言したた
め、話が変わってしまいました。放っておくと、どんどんずれた方向に進んで収拾がつかなく  
なりますから、司会は話を元に戻す必要があります。

A参加者に平等に発言の機会をあたえる。
 参加者の中にはよく話す人と、意見を持っていても自分からはあまり発言しない人がいます
から、話すにまかせておくと同じ人ばかりが発言することになります。実際そのような光景はよ
く目にしますが、誰かの独占状態のディスカッションはつまらないものです。司会は全体に目を
配り、参加者に平等に発言の機会をあたえる必要があります。

B場面に応じた適切な質問をする。
 司会の適切な質問は議論を活性化します。議論が混乱た時や意見が出ない時は、現在の
論点を踏まえた質問をすれば再び議論は活性化します。また、自分の意見をまとめられない
人には簡単な質問をすることで、議論に参加してもらえます。


(2)参 加 者 

@現在の論点はなにか、常に意識する。
 司会だけではなく、参加者も現在の論点はなにか、常に意識する必要があります。でないと
司会がいくら頑張っても、1.の例で示したように本来の議題とはまったく関係ない話にあっと
いうまに変わってしまい、ディスカッションというよりも雑談になってしまいます。

A発言の種類を意識する。
 発言する場合、自分の発言が「賛成意見」、「反対意見」、「情報提供」、「質問」のいずれな
のかを意識すると発言の際に自分の頭の中が整理できるので発言しやすくなります。発言を
聞く場合も同じです。

B発言は相手の人格に対してではなく、意見に対しておこなう。
 議論にやたらと感情を持ち込む人がいます。しかし、議論は本来感情を持ち込むべきもの 
ではありません。「反対意見」も「質問」も、お互いの意見に向けられるものであるとの自覚を 
持ってください。そうすれば感情的になることも、相手を感情的にさせてしまうこともなくなりま 
す。

C意見が分かれる時には「どちらの意見にも一理有る」との自覚を持つ。
 議論の時、以下のように常に「正義」と「悪」の二者対立構造に当てはめて考えたがる人がい
ます。

 「自分は正義の味方である(正しい考えを持っている)。」

 「あいつらは自分と意見が異なる。」

 「自分は正義の味方(正しい考えを持っている)だから自分と異なる意見を持っている奴は悪
 である(間違っている)。」


 このように考えると、意見が異なればその根拠等は一切関係なく、常に自分が正しく相手  
が間違っていることになってしまい、議論はその場でストップするか、感情的なしこりを残した 
り間違った方向に進んだりしてしまいます。

実際の議論では多くの場合「どちらも正しい」こと 
を議論しているので、「自分は正義」「あいては悪」と単純化してしまうのではなく、「どちらの意
見にも一理有る」との自覚をもつことが必要です。


D他の参加者に敬意を払う。
 経験上、1対1の議論になった時にしばしばみられるケースですが、以下のような発言あるい
は発想をする人がいます。

 「自分は視野が広い。」           ⇔ 「あなたは視野が狭い。」
 「自分は優れた理念を持っている。」   ⇔ 「あなたは劣った理念を持っている。」

 あるいは英語のディスカッションで、自分とは異なった意見や考え方に対して、自分が専門的
な知識や経験を持っている分野の話ではないにもかかわらず、いつも

  "Ordinary people think so."

 という言い方で否定する人がいます。極端な場合では自分は相手より高学歴だから正しいと
の発想を持つ人がいます。「正義」と「悪」の二者対立構造に当てはめるのと同様に、意見の
相違は発言者の「優」と「劣」によるものと考えてしまうのです。こういう発想をしてしまうと、

「自分と意見がことなるのは、相手が自分よりも劣った人間だから」

だということになってしまいます。そのため、根拠等は一切関係なく、常に自分が正しく相手が
間違っていることになり、思考はその瞬間に停止します。しかも、実際にはそういう発言・発想
をする人の方が多様な側面を見ることができないでいるケースが多いのです。

 「自分は視野が広い。」、「自分は優れた理念を持っている。」あるいは"Ordinary people 
think so."というだけでは何の説明にもなっていません。その「広い視野」や「優れた理念」、「専
門的な知識」から見て、相手が気づいていないことを具体的に説明する必要があります。 

 10人参加者がいれば10通りの立場があり、10通りの視点があり、10通りの考え方がありま
す。他の参加者の立場、視点、考え方の中には自分が知らなかったものが必ずあります。そ
れらを突き合わせていくからこそ自分の知識や考えも深まっていきます。異なった意見を持っ
た参加者を蔑視していたのではより良い結論を得ることも、自分の知識や考えが深まることも
ありません。

実りある議論にするためには、何よりも他の参加者に敬意を払うことが必要です。
 






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